劇団MONO『京都11区』@紀伊國屋サザンシアター

作・演出土田英生。1980年代末から京都を拠点に活動する劇団MONO 、第31回公演。今回は、その「京都」という土地、または観念(言葉)をめぐって物語は展開する。

京都が「純粋さ」を維持するために、他県出身者を市の中心部から排除することが国策で定められたという設定。主人公夫妻は、妻が生粋の京都人であるにもかかわらず、夫が四国出身であるために周辺地域で暮らすことを余儀なくされている。そこへ市の担当者が現れ、夫婦が暮らす古い建物を取り壊す方針を通知する。夫婦は協力者を募って抵抗しようとするが、ゴーストタウン化が進むその地域に賛同者はなかなか現れない。反対運動に協力する一組の夫婦の妻は、近所で活動を始めた新興宗教の団体に洗脳されつつある。そうした状況のなか、ある日イタリア国籍を持つという日本人が訪れ、運動への参加を申し出る・・・。

明確に「差別と抵抗運動」をテーマにしたこの作品は、たとえば在日韓国人アフリカ系アメリカ人の闘争にも共通する問題を扱っている。「京都」というドミナントイデオロギーと、それに抵抗する被差別者。運動を推進するために共通の動機を模索する登場人物は、やがてそれぞれが「違う立場」で「同じ目的」のために闘争する必要性を痛感するようになる。運動を自閉させるのではなく(特殊性)、外部への回路を確保するためには(普遍性)、個別の感情に拘泥することは得策ではないからだ。また、「京都」という支配的概念の恣意性/構築性を暴き、被差別者の運動が陥りがちな本質主義をも転覆する存在として、「京都にやたらと詳しいイタリア国籍を持つ日本人」というキャラクターが設定されている。彼が、この作品を通してトリックスターの役割を果たしていることは言うまでもない。

土田の脚本は、こうした理屈を丁寧に(いくぶん丁寧すぎるくらいに)物語上に展開している。とぼけた会話が醸し出す独特のユーモアも健在。水沼健が、主人公の夫を好演している。