菊地成孔『Degustation a Jazz』(ewe 2004) CD

さて、菊地成孔氏の新しいアルバムです。21日に発売される『Chansons Extraites de Degustation a Jazz』とともに、英語監修などで少し携わりました。とにかくこのアルバムについてはいろいろ批評が可能だと思いますが、本人が言うとおり、徹底的なモダニストのみがポストモダンを名乗ることができる、ということにつきるのではないかと。

フラグメンタルなアルバム構成(全41曲)にありとあらゆるジャズの「型」が一口ずつ陳列される。一曲が短いジャズ・アルバム、というのは歴史的にみてほとんど語義矛盾に近い。ジャズ、とくにモダンジャズの一曲の「長さ」は、この音楽ジャンルの存立基盤となっている各ミュージシャンのソロによってもたらされるからだ。そもそもモダニズムロマン主義的な要素を常に内包しているとすれば、このアルバムにおいて「ショーケース化されたジャズ」は、インプロヴィゼイションにつきまとう「自己表現」の匂いを極力消すことに成功していると言えるかもしれない。またそれは「ライブ・ダブ」という実際の演奏手法においてもみることができる。アコースティック・ジャズの演奏をその場でダブで飛ばす行為は、即興性という機能を失うことなく、ミュージシャンに対してメタレベルを設定してソロを相対化する。

UAカヒミ・カリィなどの歌姫もかっこいいし、キューバ系ミュージシャンの演奏もスリリング。あと、何度か聞き込むと、南博さんのピアノソロを菊地さんがCD-Jでいじっただけの「パイオニアCD-Jの操作によるピアノ・ソロ、UAのタイトル・コール添え」のミニマルな響きがやたらと心地よい。