平石貴樹・宮脇俊文編著『レイ、ぼくらと話そうーーレイモンド・カーヴァー論集』南雲堂、2004年

待望の一冊。レイモンド・カーヴァーという作家が日本に紹介されてから20年が過ぎたが、単行本という形での本格的な論文集は本邦初。執筆者は編者の他に青山南、篠原一、後藤和彦、渡辺信二、三浦玲一、巽孝之柴田元幸千石英世。ラリー・マキャフリイとシンダ・グレゴリーによるレイモンド・カーヴァーのインタビュー(鈴木淑美訳)を収録。巻末の詳細な年表(深谷素子編)や書誌も労作。

とにかく今、ふたたびカーヴァーを読み直すとすれば、それはいかにして村上春樹の重力から逃れたところで読むか、ということにつきると思う。その意味で三浦玲一氏の論文「コロスは殺せない?カーヴァーの名付けられぬコミュニケーション」はとても示唆に富んでいる。「カーヴァーは脱構築が嫌いだった」という、カーヴァー論としてはほとんどありえない(笑)書き出しで始まるこの論文は、その問題設定の仕方において異彩を放つ。三浦氏は「カーヴァーの作品に描かれる人生の真実とは何か」を問うのではなく、「カーヴァーの作品は何故人生の真実が描かれているようにみえるのか」と問い直すことで刺激的な議論を導き出している。ようするにそれは「語り口」の問題であり、もう少し言えばカーヴァー作品を構成するイデオロギーの問題でもある・・・・などなど。本当はもう少し書きたいんだけどとりあえずこの辺で。

豪華な執筆陣による多種多彩なカーヴァー論を満喫できる一冊。久々にカーヴァーを読み直したいという往年のファンも、卒論でカーヴァーを取り上げようと考えている学生にもお勧め。