クッツェー

J.M.クッツェーの世界―“フィクション”と“共同体”

J.M.クッツェーの世界―“フィクション”と“共同体”

報告が遅れてしまいましたが、同僚の佐藤元状さんよりご恵投いただきました。ありがとうございます。

先日、国際サミュエル・ベケット・シンポジウム東京2006*1出席のために初来日を果たしたノーベル賞作家、J. M. クッツェーに関する本邦初の研究書。南アフリカ出身というだけでポスコロの文脈で語られることが多い作家だが、デリダレヴィナスを経由した昨今の倫理批評との整合性、あるいは文学における政治性/普遍性の問題など、クッツェー作品が孕む多様な主題に焦点を当てた論文集。

たとえばアパルトヘイト後の南アフリカ社会を舞台にした小説は、アレゴリカルな読解がすぐさま政治的文脈に回収されてしまう。かといって、やみくもに普遍性を主張すれば文学の単独性が喪われてしまう。クッツェーの作品を読み解きつつ、多くの論者がこうした困難を議論の中心に据えているのは、それが「ポスト・セオリー」と呼ばれる時代において最もクリティカルな問題だからだろう。

それぞれの論者がクッツェーの異なる作品を取り上げているので、入門書としても最適。