暗黒への挑戦

というアース・ウインド&ファイアーのアルバム(原題 That's the Way of the World)がある。1975年にリリースされた作品で、シングル「シャイニング・スター」がグループ初の全米1位(ビルボード・ポップチャート)を獲得したアースの代表作の一つである。

暗黒への挑戦

暗黒への挑戦

そういえば、むかし(90年代初め)アース・ウインド・アンド・ファイターズというコピーバンドがあって(と思ったら公式サイトを発見した*1)、僕もライブを二、三回観たことがある。「アース・ウインド・アンド・ファイターズ&グイーン(もちろんクイーンのコピーバンド)夢の共演!」という、文字どおり夢のような企画もあった。ライブ会場では「アース・ウインド・アンド・ファイターズ通信」というファンのための会報誌も配られていて、そこにはメンバーの近況が書いてあったりした。今考えると、別にコピーバンドのメンバーの近況などどうでもいいような気がするが、とにかくライブの構成も含めて非常に完成度の高いバンドだった。

それはいいとして、実はこのアルバムが映画のサントラだということを憶えている人はどれくらいいるだろうか。僕もすっかり忘れていたのだが、今度その映画が日本で公開されると聞いて驚いた(公開タイトルは『ザッツ・ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド』)。以前にブラックスプロイテーション・フィルムについて発表したことがあるオレとしては、これは見逃せない。さっそく試写会に駆けつけた。

まずクレジットを確認しておこう。監督はシグ・ショア(Sig Shore)。この人はカーティス・メイフィールドのサントラで知られる『スーパーフライ』(Super Fly 1972)とその続編Super Fly T.N.T. (日本未公開、1973)のプロデューサーで、1990年につくられた『スーパーフライ』(The Return of Super Fly)では監督と製作を務めている。主演は、なんと若きハーヴェイ・カイテルである。しかも驚いたのは、アースが音楽を担当しているだけでなくメンバー全員が映画に出演(!)しているのだ。

肝心の作品だが、白人が主演であることからもわかるとおり、一見するとブラックスプロイテーション・フィルムとは関係ないように見える。「黄金の耳」を持つ音楽プロデューサー(ハーヴェイ・カイテル)が「グループ」という新進のバンド(これをアースが演じている)を手がけているが、レーベルの経営陣はつまらない白人ファミリー・グループを売り出そうとしていて、ハーヴェイ・カイテルにそのプロデュースを命じる。巨大化する音楽産業のなかで、自分の望むサウンドと経営陣の意向の狭間で苦しむ音楽プロデューサー。さて、ハーヴェイ・カイテルはどうする・・・といった音楽業界内幕もの。

よく知られているように、アース・ウインド&ファイアーはメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督の『スイート・スイートバック』(1971)のサントラも手掛けているので、この『ザッツ・ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド』と比較するのも面白いかもしれない。前者は「黒人が黒人のために作った映画」として現在でも評価が高く、後者はいわゆる「ブラックスプロイテーション・フィルム=Black(黒人)+Exploitation(搾取)、すなわち白人によって搾取され、黒人の本当の姿を損なう映画」という批判が顕在化してからつくられた作品だ。また前者は全編にわたって黒人の俳優が画面を占めているが、後者はあくまでもハーヴェイ・カイテルを中心に描かれていて、黒人の役者はそれほど多くはない。だがこの二つの作品は、確実に「ブラックスプロイテーション・フィルム」の構造を共有している・・といったところで長くなったので、この続きは別の機会にでも。

70年代B級映画が好きな人にはたまらないだろうし、アースのファンは間違いなく楽しめる内容です。公式サイトはここ*2。トレーラーも観れます。4月14日よりシアターN渋谷にてレイトショー公開。

最後にアース・ウインド&ファイアーの1981年のヒット曲「レッツ・グルーヴ」のPVを貼っておく。いろんな意味で目が離せない映像だ。