『ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ』The United States of America / The United States of America (Columbia 1968 Sundazed/Ultravybe 2004) CD

最近のお仕事の続き。

それにしても、以前に比べて洋盤のライナーは充実してきたなあ。90年代半ばくらいまでは薄い紙っぺら一枚にクレジットも何もなしなんてのも多かったような気がするが。

というわけで、バンドの中心人物ジョセフ・バードによる回顧録とヴォーカルで紅一点ドロシー・モスコウィッツのインタビューが掲載されているライナーの翻訳を担当。40枚。これはかなり面白かった。

この作品を「サイケデリック・ロック期のカルト・アルバム」と呼ぶのは簡単だけど、ライナーを読むかぎり、当時のロックと現代音楽の微妙な重なり具合が分かりやすく表現されていてとても興味深い。

とにかく、ジョセフ・バードの経歴がめっぽう面白い。スタンフォード大学大学院に在学中、テリー・ライリーやスティーヴ・ライヒ、ラ・モンテ・ヤングなどのミニマル・ミュージックに傾倒し、卒業後は東海岸に移ってジョン・ケージを中心とするサークルに所属。ニューヨークで初めてライブを開催した会場はオノ・ヨーコ所有のロフト、しかもそのときのピアニストはデヴィッド・テュードア。徐々に芸術の解体(時代だなあ)を志向して「ハプニング」やパフォーマンス・アートに関わりつつ、リチャード・マックスフィールド電子音楽を師事。

どこまで新しモノ好きなんだ(笑)という気もするけど、その後彼は作曲家/批評家のヴァージル・トムソンのもとで書記を務め、それがきっかけで南北戦争期のアメリカ音楽復刻プロジェクトに参加するようになる。音楽活動を展開するうえで、このときに得た「歴史的な視座」はとても有益だったと本人は語っている。

キャピトル・レコードでしばらく専属アレンジャーとして務めた後、西海岸に戻ってUCLA民族音楽学を専攻、博士号取得を目指しつつ徐々にロック・フィールドへ接近し始める。このころ、UCLAの友人で若き物理学徒トム・オーバーハイム(リング・モジュレーターやフェイズ・シフターを開発し、オーバーハイムシンセサイザーの創設者でもある)に原始的なシンセを開発してもらったというエピソードも70へぇー。

結局大学を離れ、1967年に彼が満を持して結成したグループがユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ。アルバムは、電子音やテープ・コラージュといった最先端の手法を取り入れつつ、同時代のサイケデリックサウンドを多分に意識した作りになっている。本人も認めているとおり、ロック的教養に乏しいメンバーによって構成されたグループは当時はなかなか受け入れられなかったが、最近になってポーティス・ヘッドやステレオ・ラブ、それにバッファロー・ドーターなどによって再評価されるようになる。

ちなみにこのジョセフ・バード、ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(しかしなんつーバンド名だ)での活動より、ライ・クーダーが78年に発表したアルバム『ジャズ』のプロデュースとアレンジを担当した人物、といった方が早いかもしれない。『ジャズ』は、ライ・クーダーが今で言うところのアメリカン・ルーツ・ミュージックを探求したアルバムとして知られるが(ジャズといっても完全にプレモダン)、実際には世紀転換期のアメリカ音楽に詳しいジョセフ・バードがブレインとしてかなり関わっていたのではないか。

ミニマル・ミュージックポスト・ロック的な感性に加えて、ルーツ・ミュージックに対する造詣の深さを持ち合わせた才能、というとどことなくジョン・フェイヒーにも通じるかも。音は全然違うけど。