ここ数日のお話

  • 5日

『太陽』を観に学生数人と銀座シネパトスへ。公開初日ということもあって、4時過ぎに集合したのに5時半の回のチケットはすでに完売。しかたなく8時の回の整理券を確保して喫茶店→ビアガーデン(ジンギスカン)とはしごする。あっというまに4皿をたいらげ、羊臭さを漂わせていい感じにできあがった一行は劇場に戻り映画鑑賞。

客層はさわやかなカップルから小難しそうなシネフィルまで、老若男女であふれかえっていた。年配の方が多かったのが印象的。オフィシャルブックを担当された編集者が言っていたように、天皇という存在はいまだに人によって様々な想いを喚起するのだということをあらためて実感した。

観劇後、学生が報道機関の人につかまって最近の富田メモとの関係について感想をきかれていた。

  • 6日

会食

  • 7日

学部時代に所属していた音楽サークルの先輩、Iさんと新宿で飲む。今年担当している「アメリカ音楽文化史」という講座のゲストスピーカーとして、後期に登場してもらうための打ち合わせ。この講座、前期は昨今のアメリカ研究/ポピュラー音楽研究の成果をふまえてブルースやカントリー、ジャズ、ヒップホップなどのジャンル史を中心に講義したのだが、後期にはいろいろな形で音楽と携わっている人をお呼びして、何回かお話ししてもらおうという趣向を計画中。他にも音楽雑誌や書籍の編集者から内諾を得ていて、個人的にもとても楽しみにしている企画だ(だってオレが話すよりよっぽど面白そうだし)。

Iさんは現在大手楽器メーカーで映像・音響機器を担当していて、都内のクラブなどの空間演出に携わっている。打ち合わせでは、最近の学生の音楽消費傾向からクラブにおけるVJとDJのセッション、広くテクノロジーと現在の音楽文化について具体的な話が聞けてとても楽しかった。実際の講義もすごく期待できそう。

そもそも、Iさんはサークルでは4つ上の代で、神様のような存在だった。僕が入学したときにIさんはすでに大学院に進学していたので、サークルにいつも顔を出していたわけではなかったが、「抜群にギターがうまい先輩」として語り継がれていた。いつも笑顔を絶やさず飄々としているのに、サークルのライブで1曲だけゲスト参加した曲のソロで、一瞬にして会場の空気をわしづかみにしてしまう。かと思うと、合宿の最終日にひょっこり現れては一年生の女子を全員連れていってしまうので(というより、Iさんがくると女子がみんなIさんのまわりに群がってしまう)下級生の男子は「あーIさんが来ちゃったよー」と敗北感にうちひしがれていたものだ。

サークルに入ったばかりのころ、当時Iさんが住んでいた元住吉の部屋に何度もお邪魔してごちそうになった。壁一面にぎっしり詰まったレコード(CDじゃないよ)を聴き、出所の怪しいビデオをたくさん観せてもらった。ポール・バターフィールドやレオン・ラッセルのLPをもらい、ジョー・テックスのかっこよさを教わった。Iさんに初めてバンドに誘われてスタジオに入ったときは、緊張してまともに楽器が弾けなかった。

卒業後も、京都や東京で数年に一度顔を合わせる関係が続いていた。今回の企画を思いついたとき、ぜひIさんに来てもらおうと思ったのは、とにかく話が面白いからだ。面白いというのは中身が濃いというのもそうだが、Iさんの話には数年後にふと思い出す言葉が多い。現場の生々しさと、まだ手つかずの未来を自然に見通したかのような清らかさが混在するIさんの話は、学生にとっても刺激的であるはずだ。

それにしても、あれから15年以上も経ったのか。Iさんを前にすると一瞬にして大学一年のころの気分に戻ってしまう。この日も結局おごってもらってしまった(オレ何やってんだ)。でもIさんも相変わらずで、ひとしきりまじめな話をしたあとに「ふーん、それでさ、教室は男子と女子、どっちが多いわけ?」とちゃっかり確認してました。