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11月23日(月)
昼過ぎに大学へ。14時、ハミルトン・ホールのアンドリュー・デルバンコ教授の研究室へ。ちなみに、デルバンコさんはコロンビアでの僕の受け入れ教官である。英文科(コロンビアはEnglish and Comparative Literature=英文学および比較文学科という名称)とアメリカ研究科の両方を担当されていていつも忙しそう。まあ学期中の慌ただしさは僕もわかるので、時間がありそうなときに研究室を訪ねている。ピューリタン研究から始め、最近はNew York Review of Books*1などにもよく寄稿している。今はアメリカの高等教育問題についてよく書いているようだ。でもとりあえず(そしてぼくの受け入れ教官になってもらった理由でもあるのだが)このメルヴィルの伝記が有名。とにかく文章が読ませる。研究室で小一時間ほど雑談。

Melville: His World and Work

Melville: His World and Work

15時、タクシーを拾い、病院へ。17時過ぎにいったん自宅に戻る。18時半、今度はBラインでアッパー・ウェストへ。別の病院で面談。22時ごろ帰宅。


11月24日(火)
自宅で原稿。18時ごろ、病院へ。いろいろまわって21時前に帰宅。さらに原稿。


11月25日(水)
11時半ごろ家を出て、67丁目のバーンズ&ノーブル*2へ。ここはリンカーン・センターやジュリアード音楽院の真向かいということもあって、音楽書が充実している。朝9時から深夜12時までやってるのも便利。ちなみにマンハッタンではいわゆる大型CD店というのをほとんどみかけなくなってしまったが、本屋に関してはBarnes & NobleやBordersなどのチェーン店と小規模の専門書店がまだまだがんばっている印象がある。

店内でマイケル・ギルモア教授と待ち合わせ。僕の博論を審査していただいた副査のひとりである。感謝祭休暇でこちらの方に来るというのでわざわざ立ち寄っていただいた。近くの中東料理の店で昼食。昨年、二週間ほど日本をまわってレクチャー*3された論文をもとにした近著(もう予約できるみたい)や僕の最近の仕事について話す。

The War on Words: Slavery, Race, and Free Speech in American Literature

The War on Words: Slavery, Race, and Free Speech in American Literature

15時ごろ帰宅、原稿を仕上げて送る。倒れるように寝る。

夜、アルモドバルの新作*4を観た帰りのAと渡辺と合流、9アベ沿いのカシュカバル*5で夕食。


11月26日(木)
感謝祭。17時ごろ家を出て近くの店でワインを購入。サンクスギビングは日本でいうとお正月に似ていて、この日(11月最後の木曜日)から週末にかけてみなさん故郷に帰って家族と過ごす。大学によっては寮も全部閉まるので、留学生はわざわざ旅行しなければならなかったりするらしい。コロンビアも今日だけはすべての施設が休館。

タクシーでOさんのお宅へ。七面鳥を焼くというのでご招待いただいた。


僕らが到着したあとも続々と人が集まり、最終的に10人ほど。ニューヨークで活動している音楽関係やダンス関係の方々が中心。

ところで、ニューヨークにきてからずっと頭を悩ましてきたことがある。こちらに長く住んでいる日本人の集まりにいくと、やはりみなさん名前で呼び合うことが多い。それはある意味当然で、旦那さんや奥さんがアメリカ人だったり、外国人の友人や仕事仲間も一緒にいるとファースト・ネームで呼び合う方が自然なのだ。ただこの場合、日本人男性同士はどうしてるのだろうか。ずっと気になっていたのに今日も確認し忘れた。いや、本当にどうでもいいんだけど、たとえば、

「はじめまして、ゆうこ(仮名)です。」
「あ、わたし、あいこ(仮名)といいます。」
「どうも、りょうこ(仮名)です。」
「こちらこそはじめまして、けいこ(仮名)です」
「いろいろうかがってますー。わたし、まちこ(仮名)っていいます」
「ずっとあいたかったんですよー。かずみ(仮名)です!」

などという挨拶が行き交うなか、不惑間近のおっさん(俺)が唐突に

「はじめまして、としゆき(実名)です。」

っておかしくないか? なんかかわいらしい感じになってないだろうか。ひとりだけ小学生が混じってしまった感がありありと漂うのだが、気のせいだろうか。それとも単に俺の名前が小学生っぽいということか。みんなが一斉に眉をひそめて「としゆきって(笑)。ぷぷっ」とかいうふうにならないだろうか。いや、「ぷぷっ」ですめば良い。

「え?ごめん、いまの何?もしかしてファースト・ネーム?」
「なんでいきなり名前とかいってるの?」
「なにこいつ、頼むからもうすこし空気読めよ」
「お前の名前なんて誰もきいてないっつーの」
「ちょっとこの人おかしくない?」
「次から呼ぶのやめようぜ」
「つーかマジうざい」
「キモッ!」
「死ねばいいのに!」

とかそういうふうにならないだろうか。 だいたい自分の名前でありながらこの「としゆき」という響きに全然慣れなくて、それはどうしてかというと大学を卒業するまでずっと「バク」と呼ばれてきたからだ。もちろん、名字が「大和田」なので仕方がない。仕方がないといっても、たぶん今の若い人はわからないか。むかし大和田獏ってものすごいメジャーだったんです。お茶の間的に。うそじゃない。だから誓ってもいいが、あのころ日本全国の「大和田」はほぼ全員「バク」というあだ名を付けられたはずだ。だいたいうちの弟も学校で「バク」って呼ばれてたからな。だから友達が電話をかけてきて、うちの母親に向かってうっかり「バクくんお願いします」といったときも(そう、かつて携帯電話がない時代にはこういうことが多々あったのです)、母親も「どっちのバクですか?」と慣れたもんだった。

そんなことはどうでもいい。問題は自己紹介である。でも、いくら慣れているからといって、

「はじめまして、ひろこ(仮名)です」
「あ、こんにちは、まゆみ(仮名)です」

っていう流れで

「はじめまして、ばくです。あだ名です。苦笑い。」

っていうわけにもいかないしなあ。悩ましい。


11月27日(金)

大学図書館

夕方、渡辺と待ち合わせて三人でリンカーン・センター近くのレストランで夕食*6。こういう機会もしばらくとれないかもしれない。


11月28日(土)

午前中にミッドタウンの大型店に向かい、大量の買い物。これでようやくもろもろ準備が整ったといえるのか。

午後、大学関係の書類。思ったより時間がかかる。

夜、Junot DiazのThe Brief Wondrous Life of Oscar Waoを読む(読み直す)。


11月29日(日)

昼過ぎにダウンタウンの美容室へ。夕方帰宅。ネタ探し。

Junot DiazのThe Brief Wondrous Life of Oscar Waoを読む。