日本アメリカ文学会第42回全国大会@椙山女学園大学(10/11、12)

土曜日、新幹線で昼過ぎに名古屋着。ホテルに荷物を預けて会場へ。初日は個人の研究発表。一橋大学・三浦玲一さんの発表が面白かった。ウォルター・ベン・マイケルズなどの批評的枠組みを用いてキンケイドやオブライアン、サリンジャーを論じたもの。とくに、サリンジャーの作品が最終的には読者の共感に依存するレトリックで成立しているという指摘に深く同意。発表終了後、近くのホテルで懇親会。アメリカで学位を取得した石原さんと久々にお会いする。さらに場所を移して飲み。

二日目。午前中は作家の笙野頼子さんの講演。ありとあらゆることに毒づく、という才能の一端を垣間見る。昼食を挟んで中部支部発題のシンポジア、「恋愛小説(ロマンス)の復権」を聞きにいく。これが抜群に面白かった。恋愛小説の起源とも言えるサミュエル・リチャードソン『パメラ』から、20世紀アメリカの出版界にいたる系譜を検証。さらに日本学術振興会堀啓子さんが(この方は尾崎紅葉の『金色夜叉』の元ネタがアメリカの作家バーサ・M・クレーの作品にあることを突き止めた人だ)そうした恋愛小説を大量に翻案した明治期の日本の受容状況を報告。とくに愛知教育大学尾崎俊介さんのハーレクイン・ロマンスに関する発表は興味深かった。

1960年代にイギリスの恋愛小説を「輸入」する形でアメリカで人気を博すようになったハーレクイン・シリーズだが、それは読者の趣味を細部まで計量化するという徹底したマーケティングに基づき、すべての小説のプロットを統一化・画一化(この「すべて」というのが重要。これには「ロマンスの読者は同じような話を何度読んでも絶対に飽きない」という統計的な裏付けがあるらしい)したことで成功を収めた。経営陣には元P&Gマーケティング担当を引き抜くなど、商品=作品の徹底した「品質管理」に励む手法は、午前中の笙野頼子さんのいうところの「売り上げ小説」の究極的な形だといえる。そのような商品においては作家も舞台設定の違いもさしたる意味はない。「ハーレクイン・ロマンス」というブランド名だけが確実に前景化されるだけだ。しかも歴史的にいえば、「ロマンスの本場であるイギリスの恋愛ものをアメリカの読者が消費する」という構図は、『パメラ』がアメリカで流行して以来まったく変わっていない・・・という発表。なるほどなあ。でもすげえ。世界中で毎秒5.5冊売れてるらしいよ、ハーレクイン・ロマンス。毎分330冊。毎日毎日世界で50万部近く売れてるシリーズ、って書いてるだけで笑っちゃうぞ。

無事終了。会場をあとにして、名古屋駅でサークル時代の先輩と待ち合わせて食事。久しぶりにいろいろ話す。ごちそうさまです>佐藤さん。8時半頃の新幹線で東京へ。