性と暴力のアメリカ

性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶 (中公新書)

性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶 (中公新書)

はい。先輩であり恩人であり上司であります>増田くん id:smasuda:20061107。ちなみに、あとがきにあるようにこの本は講義が元になっているのですが、階段教室がいつも満員になるほどの人気講座です。

「性と暴力の特異国」としてのアメリカを、「歴史的、法的、政治的、社会的、文化的側面」から総合的に検証するという内容。学際的な手法を用いつつも奇をてらうことなく、テーマを丹念に論じた好著。「他者との関係をどう築くか」という性をめぐる問題と、「紛争をどう解決するか」という暴力の問題が、アメリカにおいて必然的に結びつく過程が豊富な事例とともに綿密に描かれている。増田くんも言ってるとおり、現在のアメリカのふるまいを政治/外交的な視点だけでなく文化/社会的な側面から検証している点が非常に新鮮。

個人的にとても面白かったのは、アメリカにおける中世主義を論じた部分。産業革命に対する反動としての中世主義(いまだったらIT革命に対するロハスか)はヨーロッパだけにみられる現象ではなく、むしろアメリカにおいて極端なかたちで現れる。19世紀アメリカにおける厳格な性道徳はヴィクトリアニズムの影響だし、暴力による紛争解決の背景には騎士道精神の伝統をみることができる。

むりやり自分の専門に結びつければ、「近代社会に突然現れる中世的特質」という構造が、19世紀アメリカにおける「フォーク・ミュージックのアーカイヴ化」を可能にしたともいえる。本国イギリスで失われていた中世のバラードが、アパラチア山脈にすむ人々によって歌い継がれていた様子は、映画『歌追い人』に描かれていたとおりだ。ヨーロッパ中世的なものがアメリカ民衆文化として読み替えられる認識論的枠組みの変化、ここにアメリカ文化の重要な特質があると常々思っているのですがこれはまた別の話。