2009年ベストテン

今年は本当にCDを買わなかった。100枚いってないかもしれない。これほど買わなかったのは20年ぶり。理由はいくつかあるが、まずニューヨークに大型CD店がほとんど見当たらないということ。バーンズ&ノーブルやボーダーズなどの書店チェーンの一角に小さなCD売り場があるくらいだ。あとは、アマゾンの配達が遅いこと。日本だと翌日には届くものが、やはり国土が広いせいか三、四日はかかってしまう。そのくらい待てばいいじゃないかといわれればそれまでだが、四日も経つと興味を失ってしまうのだ。

必然的に、iTunesからダウンロードしたり、シングルのPVをYouTubeでみたりする機会が飛躍的に増えた(だいたいこれで十分だったりする。というか、学生はもうずっとこういう聴き方をしているんだろうな)。まるで『小林克也ベストヒットUSA』でヒットチャートを追いながら、気に入った曲のレコードを買っていた(借りていた)中学時代に逆戻りした気分だ。そして、個人的にも「アルバム」という単位で音楽を聴く習慣が急速に廃れた年だったように思う。

もしかするとアルバム単位でのベスト10は今年で最後かもしれないという予感を抱きつつ、2009年にもっとも楽しんだのは下記10枚。並びはアルファベット順なので番号は関係ありません。


1) Allen Toussaint / The Bright Mississippi (Nonesuch 2009)

Bright Mississippi

Bright Mississippi

ニューヨークに来てからアラン・トゥーサンは二回見た。一度目は5月のヴィレッジ・ヴァンガード。二度目は8月のリンカーン・センターの野外公演で鈴木晶さんご夫妻とご一緒した。このアルバムはトゥーサンがはじめて本格的に戦前ジャズに取り組んだ作品。ジョー・ヘンリーによるプロデュース。マーク・リボーなどが参加。


2) Clipse / Til The Casket Drops (Columbia 2009)

Til the Casket Drops (Clean)

Til the Casket Drops (Clean)


ヴァージニア州出身の兄弟ラッパー。これまでネプチューンズのトラックにずっと頼ってきたが、今回はカニエやDJカリールなども曲を提供。もともとラップやリリックには定評があったものの、セカンド・シングル"I'm Good"には驚いた。なんだこの圧倒的なメジャー感。素晴らしい!ただひとつ気になるのは「"I'm Good"(オレってイケてるっしょ!)」とノリノリでPVに映っているのが実は兄弟ではなくファレルではないか、という点だ。


3) Dirty Projectors / Bitte Orca (Domino Recordings 2009)

Bitte Orca (Ocrd)

Bitte Orca (Ocrd)


最近はあまりロックの新しいアルバムはチェックしていないが、今年ニューヨークで飛び抜けて注目されたグループだといえるだろう。ビョークデヴィッド・バーンがライブに飛び入りしたことでも話題になり、11月にダウンタウンのバワリー・ボールルームで行われたライブ(4デイズ)も完売。エスニックな音楽の取り込み方がたしかにトーキング・ヘッズを彷彿とさせるが、その独特のソングライティングと強烈な女性ボーカルにはかなり惹かれます。


4) DOOM / Born Like This (Lex Records 2009)

born like this

born like this


覆面ラッパー、DOOM(旧 MF DOOM)は90年代後半から活動していたようだが、一般的に知られるようになったのはマッドリブとのプロジェクト、Madvillainで成功して以降(2004)。マスクをつけてラップするアイディアはアメコミのキャラクターから着想を得たものらしい。サウンドも含めてアルバムのコンセプト全体がコミック/マンガ的な想像力にあふれている。1月にはこちらでモス・デフとも共演する予定。


5) Jay-Z / The Blueprint 3 (Roc Nation / WEA 2009)

Blueprint 3

Blueprint 3


とくに好きなアルバムではないが、なんといってもアリシア・キーズをフィーチャーしたシングル"Empire State of Mind"は本当によく聴いた。聴いた、というのは自分で積極的に再生したのではなく、文字通り街のいたるところで流れていたのだ。ブルックリン出身のジガとヘルズ・キッチンで生まれ育ったアリシア・キーズが街のスナップショットを背景に高らか歌い上げるニューヨーク讃歌(ちなみに、ぼくがヘルズ・キッチンに部屋を借りたと日本の友人/知人に報告した際に、「じゃあアリシア・キーズと同じですね」と真っ先に指摘してくれたのは長谷川町蔵氏である。なんでそんなこと知ってるんだ!)。PVを見てもらえればわかるが、あまりに空っぽで逆にすがすがしい。個人的にはヤング・ジージーをフィーチャーした"Real As It Gets"が好き。


6) Kid Cudi / Man on the Moon: The End of Day (Good / Universal Motown 2009)

Man on the Moon: The End of Day

Man on the Moon: The End of Day


ついにヒップホップはここまで来たか、と思わずにはいられない。とにかくPVを見てほしい(ってこればっかりだな)。どこのアート・ロック・バンドのビデオかと思うほどオシャレで気が利いている(それにしても、コモンかっこいいな)。これがダーティー・プロジェクターズのプロモだといわれてもわからないだろう。カニエにフックアップされたクリーヴランド出身ラッパーのファースト。カニエ/キッド・クディは明らかにゲームのルールを変えようとしている。ただ、この方向での「ルール変更」はジャンルそのものの溶解に繋がるだけではないかという気もする。今年はアッシャー・ロスという白人ラッパーも話題になったが、同じ異端であれば僕はこちらの方が好きでした。


7) Mos Def / The Ecstatic (Downtown Music 2009)

Ecstatic

Ecstatic

ii
最初このアルバムの良さがいまいちわからなかった。でも聞き込むうちにモス・デフのラップに少しずつ引き込まれていった。うん、良いアルバムだと思います。


8) Raekwon / Only Built 4 Cuban Linx... Pt. 2 (Ice H20 Records 2009)

Only Built 4 Cuban Linx 2 (Clean)

Only Built 4 Cuban Linx 2 (Clean)


リアルを突き詰めた末に「漫画/劇画的な世界」が立ち上がるのは、おそらく20世紀末以降の先進国に共通する現象であると先日『文學界』にも書いたが、その意味では本家本元ウータン・クランの登場。このPVもすごい(たぶんYouTubeのサイトに飛ばないと見れない)。1995年に絶賛されたOnly Built 4 Cuban Linxの続編という位置づけ。マフィアの犯罪を題材としたコンセプトに、今回も『男たちの挽歌』のシーンがサンプリングされていたり、お馴染みの世界観が繰り広げられている。


9) Tanya Morgan / Brooklynati (IM Culture 2009)

Brooklynati

Brooklynati


シンシナティ出身のMC二人とブルックリン出身のMC/プロデューサーの三人組。かなりよく聴いた。


10) V. A. / Dark Was The Night (The Red Hot Organization 2009)

Dark Was the Night

Dark Was the Night

まずは参加ミュージシャンの一部を列挙してみよう。デヴィッド・バーンギリアンウェルチ、スフィアン・スティーヴンス、ヨ・ラ・テンゴ、クロノス・カルテット、ダーティー・プロジェクターズ、アントニーアントニー&ザ・ジョンソンズ)、ベイルート、アンドリュー・バード、ケヴィン・ドリュー(ブロークン・ソーシャル・シーン)、ベン・ギバード(デス・キャブ・フォー・キューティー)、グリズリー・ベア、スチュアート・マードックベル&セバスチャン)・・・。もう、これだけで即買い決定なわけだが、それぞれのミュージシャン/グループの曲のクオリティーも非常に高い。1920年代から30年代にかけて録音を残しているブルース/スピリチュアル・シンガー、ブラインド・ウィリー・ジョンソンの代表曲「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」にインスパイアされたインディー系のミュージシャンが集まってできたコンピで、ようするに主題は「恐慌下のブルース」ということだと思う。それにしても、クロノス・カルテットによる「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」のカバー(!!)も驚いたし、一枚目の最後を飾るスフィアン・スティーヴンスの"You are the Blood"(同じアズマティック・キティ・レーベルのカスタネッツの曲のカバー)は、個人的に2009年のベストトラックかもしれない(いや、正確にいうと10分くらいある曲で、後半の5分はわりとどうでもいいのですが)。

他にも、DJ Quik & Kurupt / Blaqkout (Mad Science 2009)やJ Dilla / Jay Stay Paid (Nature Sounds 2009)、それにMadlib / Beat Konducta Vol. 5-6 (Stones Throw 2008)(←これ、2008年ってCDの帯には書いてあるんだけど、公式サイトには2009年発売になっている。どっちだっけ?)をよく聴いた。あと、どうしても日本の音楽からは離れてしまったのだが(そして今年はさらに日本のヒップホップが盛り上がったようなのだが・・・いまからでもいいので、NくんかMくんは今年のベストをメールで送ってくれ!)、Perfumeと先日出たばかりの口ロロのアルバムは文句なしに素晴らしいと思いました。
BlaqkoutJay Stay PaidBeat Konducta 5-6: A Tribute to Dillaトライアングル(初回限定盤) everyday is a symphony