V. A. 『ザ・マスターズ・オブ・セイクリッド・スティール』(V.A. / None But The Righteous: The Masters of Sacred Steel; Ropeadope 東芝EMI 2002) CD

ロバート・ランドルフによって一気に火がついた感のある「セイクリッド・スティール」。もともと1930年代後半にペンテコステ派の教会(厳密に言えば、ペンテコステ派のなかでもアフリカ系アメリカ人が多いホーリネス系の「ハウス・オブ・ゴッド」と「ジュエル・オブ・ゴッド」教会のみらしい)で使われ出したスティール・ギターが、20世紀末に「発見」されたのがブームのきっかけである。ルーツ・ミュージックの発掘には定評のあるアーフーリー・レーベルから1997年に発売されたV. A. / Sacred Steel: Traditional Sacred African-American Steel Guitar Music in Florida (Arhoolie 1997)によって、おそらくほとんどの人がその存在を初めて知ったのだろう。2001年には同じくアーフーリーからSacred Steel: The Steel Guitar Tradition of the House of God Churches (Arhoolie 2001 Video)というタイトルのビデオも発売され、その演奏法や文化的背景の一端が映像として確認できるようになる。

そして昨年、ロバート・ランドルフ・アンド・ザ・ファミリー・バンド『ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ』(Darecords Warner Bros. 2002)の衝撃が、単なるルーツ・ミュージックとしての「セイクリッド・スティール」を「現在」の音楽として蘇らせることになった。その際、彼らの音楽がゴスペル音楽ではなく、ジャム・バンドの文脈で評価されたことは指摘しておいていい。一口にジャム・バンドといってもジャズ系、ロック系、カントリー系、ニュー・オーリンズ系など様々な流派が混在していて、今となっては具体的にどのような音楽をさすのかすら定かではない。が、ともかくジャズ系ジャム・バンドの筆頭、メデスキ・マーティン&ウッドのジョン・メデスキが、ロバート・ランドルフやセイクリッド・スティールに目を付けたことが、彼の名を有名にするのに一役買ったことは間違いないだろう。

本盤は、そのジョン・メデスキ監修による「セイクリッド・スティール」の入門盤とでも言うべき内容。これまでアーフーリーから発売された6枚のアルバムから選曲されている。

1880年代にハワイで生まれたとされるアコースティック・スティール・ギターだが、アメリカ本土に紹介されたのは1910年代以降である。また、日本盤解説のピーター・バラカンによれば、スティール・ギターそのものがアメリカで発売されたのは1932年のことらしい。30年代のハワイアン・ブームに乗ってスティール・ギターがアメリカ本土に本格的に紹介され、それがアフリカ系アメリカ人教会で演奏されるようになる経緯は、とても興味深い。